サイクル条件開発用 真空凍結乾燥機
LyoStar 4.0
医薬品の製剤化研究における凍結乾燥条件の開発に
スケールアップ条件検討のための先進PATツールを搭載
無菌注射製剤の開発では、パイロットスケールあるいは工業生産スケールでの製品の凍結乾燥にあたって、その最適なサイクル条件をラボスケールの真空凍結乾燥機で検討する必要がございます。
ATS HullのLyoStar 4.0は、この目的のために開発された真空凍結乾燥機です。凍結乾燥工程における製品特性(特に温度プロファイル)を効率的かつ高い精度で知るための先進のPATツールを搭載しており、凍結乾燥サイクルの開発を短時間で行うことを可能にします。
医薬品申請までの時間短縮、原薬(API)使用量の削減、生産性の向上、そして開発コストダウンにつながるテクノロジーをご紹介いたします。
QbDに基づく凍結乾燥条件開発のための最先端のPATツールを搭載
Quality-by-Design
従来、医薬品の品質管理は、最終製品になってから初めて規格試験を実施し、いわば抜き取り検査によりその品質を保証していました。これをQuality-by-Test(QbT)と呼びます。
近年、新薬の製剤開発においては、ICH-Q8で定められたQuality-by-Design(QbD)の原則に基づいて医薬品開発を進め、当局への承認申請を行うことが求められています。
QbDによる品質管理では、製品は、製造工程の深い科学的理解に基づき、製造プロセス中からその製品品質を作りこむことが求められています。すなわち、目的の品質を満たす製品を製造するための製造プロセスを、経験的ではなく体系的な科学的知見に基づいて設計し、原材料から各工程の管理に至るまで、設計された製造プロセスが常に適切に稼働していることを監視することで製品の品質を保証します。
QbDでは、最初に目標品質プロファイル(QTPP)を定めることで、その製品に求める品質を定義します。次にそのための重要品質特性(CQA)あるいは重要物質特性(CMA)を定め、そのCQAを満たすのに必要な重要工程パラメーター(CPP)を決定します。
その工程管理においては、目的の品質を満たすことが実証されている製造条件の範囲(管理幅)、すなわちデザインスペースを決め、そのスペース内で製造を行います。デザインスペースは複数のパラメーターで定められる多次元スペースです。
そして、適切なProcess Analtyical Technology (PAT: 工程解析技術)を用いて、適時(できればリアルタイムに)計測を行うことで、デザインスペース内で製造が行われていることを管理します。
凍結乾燥のスケールアップとデザインスペース
凍結乾燥製剤の品質維持では、製品にコラプスを起こさせないことが最も大切です。その上で、凍結乾燥サイクルの時間(特に一次乾燥の時間)をできる限り短くすることで、生産コストの削減と生産性の向上を図ることが可能です。
そのための凍結乾燥条件の最適化は、通常ラボ機で行い、それをパイロットスケール機や生産機にスケールアップします。
しかし、ラボスケールの凍結乾燥機とパイロット/生産スケールの凍結乾燥機では、乾燥庫のサイズが大きく異なるため、サンプル(バイアル)への熱伝導のされ方が異なります。
そのため、小型ラボ機で最適な凍結乾燥サイクル条件(棚温度・真空度・乾燥時間)をそのままパイロット機や生産機にあてはめても、同じ結果を得るのは困難です。
そこで凍結乾燥のスケールアップで最も大切になるのは、品質に影響を与える製品特性、特に凍結乾燥工程における製品の温度プロファイルを精確に知り、その温度プロファイルをパイロット/生産機で再現することです。
そのためには、頑健性が高く、かつ凍結乾燥条件を無用に狭めすぎることのないデザインスペースを作ることが大切です。
そのためには、それぞれのスケールに応じた、あるいはラボ機からパイロット/生産機までスケーラブルに使用できる適切な温度プロファイルモニタリングツール、すなわちProcess Analytical Technology ツール(PATツール)を利用することが求められます。
凍結乾燥のPATツール
凍結乾燥機における最も単純で昔からあるPATツールは熱電対プローブ(Thermocouples)です。バイアル底に設置した有線の温度センサーを用いて凍結乾燥中の製品温度をモニタリングします。
しかしこの熱電対プローブ法は、凍結乾燥サイクル最適化とスケールアップのPATツールとしては多くの問題を抱えています。
「熱伝導の媒体として働きプローブを設置していない通常のバイアルよりも早く乾燥する」「バイアルの常に同じポジションに挿入するのが困難」「バイアル底に設置されるため昇華面の温度をモニタリングできない」「安定せず倒瓶のリスクがある」「測定精度に乏しい」「無菌性の維持が困難」などです。
そのため、これらの問題を解決する様々なPATツールの開発が進められています。
ATS HullのLyoStar 4.0は、世界の先進のPATツールを搭載した凍結乾燥機です。これらのPATツールを用いることで、凍結乾燥工程中の製品温度プロファイル、特にデザインスペースの作成に重要とされる既乾燥層水蒸気移動抵抗(Rp)やバイアル伝熱係数(Kv)を効率的かつ精確に得ることができます。
LyoStar 4.0に搭載可能なPATツール
LyoStar 4.0には下の3種類のPATツールを搭載することができます。TDLAS テクノロジーとワイヤレス品温センサーはLyoStar 4.0だけでなく、パイロット機や生産機でも利用可能なスケーラブルなPATツールです。
SMART テクノロジー
(標準機能)
AutoMTM(自動マノメーター温度測定)技術を基盤に、製品温度が設定した温度に調整されるように、一次乾燥中の棚温度を自動で制御しながら運転を行う一次乾燥条件の最適化ツールです。
一次乾燥工程における製品の既乾燥層水蒸気抵抗(Rp)、昇華面温度(Tp)、製品温度(Tb)、凍結層厚(Lice)、そしてマスフロー(dm/dt)などの経時データを自動算出することができます。
従来までトライ&エラーで行われていた凍結乾燥サイクルの検討の労力と時間を大幅に削減し、わずか1-2回の運転で条件の最適化を行うことができます。
LyoFlux TDLAS
(オプション)
波長可変ダイオードレーザー吸収分光法(TDLAS)は、近赤外レーザー用いたドッブラー法を利用して、水蒸気の密度と移動速度を非侵襲的にリアルタイムに計測する技術です。
デザインスペースの作成においてキーとなるパラメーター、バイアル伝熱係数(Kv)、既乾燥層水蒸気移動抵抗(Rp)、そして装置固有の圧力制御の限界(チョークフロー)などの豊富な情報を、簡単かつ精確に、無菌性を維持しながら得ることを可能にします。
ラボ機だけでなくパイロット機や生産機でもご使用いただくことができます。
ワイヤレス品温センサー
(オプション)
製品温度をモニターするための無線の温度センサーです。
有線式の熱電対プローブのようにセンサーの挿入位置がずれることがなく、バイアル底の温度を安定して測定できます。棚のどこにでも安定しておくことができ、倒瓶のリスクもなくなります。
凍結乾燥中だけでなく、サンプル充填中やバイアル搬送時の品温の測定も可能です。
パイロット機や生産機にも使用可能で、アイソレーター仕様の凍結乾燥機や自動バイアル搬入にも対応できます。センサーはオートクレーブ可能です。
予備凍結工程における氷晶核形成を制御
凍結乾燥製品の品質維持とスケールアップにおいて、もう一つ大切な要素が、予備凍結工程における過冷却度のコントロールです。
サンプルの予備凍結工程において、それぞれのバイアルは一斉に凍り始めるのではなく、バイアルによって凍結するタイミングが異なることが知られています。すなわち、バイアルにより凍結時の過冷却度が異なります。
過冷却度は、氷晶のサイズに影響を与えることがわかっています。氷晶サイズが違うと既乾燥層水蒸気抵抗(Rp)が異なり、そのため一次乾燥時間も異なります。すなわち、過冷却度の違いにより、バッチ間での製品品質のばらつき、あるいは同一バッチ内でもバイアル間で品質のばらつきが生じてしまいます。
この過冷却度の違いによる製品品質の不均一性は、生産コストの増大と信頼性の低下を招きます。
小さい過冷却度
氷晶サイズ:大きい
既乾燥層の空隙:広い
水蒸気移動抵抗:小さい
一次乾燥速度:はやい
大きい過冷却度
氷晶サイズ:小さい
既乾燥層の空隙:狭い
水蒸気移動抵抗:大きい
一次乾燥速度:遅い
また、過冷却度のコントロールは、凍結乾燥条件のスケールアップにも重要です。氷晶核形成の開始温度は環境のクリーン度にも大きく影響を受けます。すなわち、通常の清浄度の部屋では、微小に存在する塵埃(微粒子)により小さい過冷却度で氷晶核の形成が促されますが、清浄度の高いクリーンルーム内では微粒子が存在しないため氷晶核形成の開始に高い過冷却度が必要とされます。
したがって、スケールアップの条件検討において、通常の部屋に設置した凍結乾燥機で得たサンプル温度プロファイルを、クリーンルームに設置した凍結乾燥機にそのまま適用するのは困難です。
ControLyo テクノロジー(オプション)
SP HullのLyoStar 4.0には、ControLyoと呼ばれる氷晶核形成制御テクノロジーを搭載することができます。
ControLyoは、瞬間昇圧/降圧法(Pressurization/Depressurization)とも呼ばれ、不活性ガスでパージした乾燥庫内を瞬間的に加圧・減圧することにより、庫内全域で均一な氷晶核形成が行われることを可能にします。また、機械室の清浄度に関わらず、小さい過冷却度で氷晶核形成を開始させることが可能です。
このテクノロジーは、スケーラブルであり、パイロットスケールや生産スケールの真空凍結乾燥機にも後付けで搭載することができます(真空凍結乾燥機の条件等はお問い合わせください)。
LyoS 2.0 ソフトウェア
LyoStar 4.0には、機能性と操作性に優れたオペレーションソフトウェアとコントロールPCが標準付属します。
- 装置の制御(オートレシピモード/マニュアルモード)
- ファンクションテスト/リークテスト
- イベントログ/アラームログ
- 一次乾燥終点の検知(CM/PM法あるいはMTMによる圧力上昇テスト)
- システムステータス表示(常時)
すべての、運転条件(設定値を含む)、実験結果(数値データ)、操作ログは自動で保存され、必要に応じてエクスポートすることが可能です。
21 CFR Part 11 対応(オプション)
LyoS 2.0 ソフトウェアはSCADAベースでデザインされたソフトウェアです。
コンピューターにはGE社のProficy iFix HMI softwareが搭載されており、オプションの21 CFR Part 11モジュールをご購入いただくことでGLP/GMP環境下での使用にハイレベルに対応することができます。
その他のオプション
前述の3種類の主要オプション(LyoFlux TDLAS、ワイヤレス品温センサー、ControLyo、および21 CFR Part 11 ソフトウェアモジュール)は、出荷時だけでなく、出荷後の後付けオプションとしてもご選択いただけます。
LyoStar 4.0では、それ以外にいくつかのオプションをご選択可能です(すべて後付けも可能)。
- サンプルエクストラクター(Sample Thief Door)
- 温度プローブの挿入位置を固定できる特製プローブ(バイアル口径 13mm or 20mm)
- 追加用リムーバブルボトムトレイ
- 水平設置のためのアジャスター(足)
サンプルエクストラクター(画像)は、凍結乾燥中に乾燥庫の真空を維持したままバイアルを取り出すことができる特殊なチャンバードアです。
バイアルを取り出して含水量を測定することで二次乾燥の終点を直接的に評価することができます。
製品仕様
本体構成の選択
LyoStar 4.0は、標準モデル(基本構成)以外に、クリーンルーム仕様あるいはアイソレーター仕様の選択も可能です。
真空ポンプにスクロールポンプ(ドライポンプ)を採用しコンデンサードアをガラス製にしたモデルは、標準モデルよりも高い溶媒耐性を持ちます。
選択可能な構成は、コンデンサー冷却方式(コンプレッサー)が空冷式か水冷式かにより異なります。
※ TDLAS、ワイヤレス温度センサー、ControLyoは、どの構成にも後付け可能です。SMART/AutoMTMはすべてのモデルに標準付属します。
モデル | 構成 | コンデンサー | |
---|---|---|---|
空冷 | 水冷 | ||
Standard LyoStar | 基本構成 | ● | ● |
TDLAS LyoStar | 基本構成+TDLAS+ControLyo+ドライポンプ | ● | ● |
Solvent LyoStar | 基本構成+ガラスコンデンサードア+ドライポンプなど | ● | |
Foam Drying LyoStar | 基本構成+ControLyo+ドライポンプ+CMコントロール 1-15 Torr | ● | |
Cleanroom LyoStar | 基本構成+クリーンルームフランジ+ガラスコンデンサードア+ドライポンプ など | ● | |
Isorator LyoStar | 基本構成+アイソレーターフランジ+ガラスコンデンサードア+ドライポンプ など | ● | |
4 Shelves LyoStar | 基本構成+棚板1枚追加(計4枚) | ● |
基本構成と仕様
基本構成 | |
---|---|
| |
乾燥チャンバー仕様 | |
棚面積 | 0.427 m2(棚板3枚時) |
棚間隔 | 71.1 mm(非ラッチング時) |
棚到達温度(+25℃ → -40℃) | -70℃ 以下 |
棚温度制御範囲 | -70℃ ~ +60 ℃ |
棚冷却速度 | 25 min 以内 |
棚温度均一性 | ± 1.0 ℃ |
コンデンサー仕様 | |
到達温度 | -85℃ 以下 |
最大容量 | 30 L 以上 |
表面積 | 0.548 m2 |
冷却速度(+20℃ → -45℃) | 10 min 以内 |
コンプレッサータイプ | 空冷式と水冷式を選択 |
コンプレッサー数 | 2個 |
コンプレッサー出力 | 2.6 kW / 1.5 kW(3.5 hp / 2 hp) |
冷媒種類 | R499A / R508b |
冷媒充填量 | 1.2 KG / 0.95 KG |
真空性能 | |
到達真空度 | 10 mTorr 以下 |
減圧速度(大気圧 → 100 mTorr) | 25 min 以内 |
真空制御範囲 | 20 ~ 500 mTorr |
サイズと重量(本体) | |
サイズ | 幅994 × 奥行1208.5 × 高さ2144 mm |
重量 | 680 kg |
電源仕様 | |
電圧と電流 | 208/230 V、40 A、単相 |
周波数 | 50 Hzと60 Hzを選択 |
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